パルクールは本当にオリンピック競技を目指すのか?調べてみた。
※本記事については、執筆時点では公開されていなかった重要な後発事象が明らかになっています。詳細は、こちらを御覧ください。
先日、1本のニュースが流れた。
【体操】パルクールが新種目に FIG理事会 渡辺守成会長「五輪での追加を目指す」 - 産経ニュース
国際体操連盟(FIG)は23日までスイスのローザンヌで理事会を開き、フランス発祥で障害物を飛び越えていくニュースポーツ「パルクール」を新たな種目として加えることを決めた。5月の評議員会(バクー)で承認を諮る。
筆者の知る限り、日本でパルクールが競技として公式に実施されたことはない。世界でも、パルクールにおいて、スポーツ界から公式に認められた世界的連盟はまだ無く、競技としての公式ルールも存在しない。つまり世界的に見ても、パルクールはオリンピックの新種目となる以前に、競技としてすら成立していない段階だ。
これは当然といえば当然である。現在世界中で実践されているパルクールは、本質的には、自己の精神と肉体を鍛える自己鍛錬であり、人と競い合うものではない、というような考え方が強い。そのため、これまでにパルクールと銘打った大会は強く批判を浴びてきたし、今もパルクールの大会や競技化を公式に認める動きは見当たらない。このような状況下で、パルクールをオリンピックの新種目に推薦する動きがあるのは、競技の発展する順序として非常に疑わしい。
一方で、Red Bull社によるRed Bull Art of Motionや、WFPFによるWFPF Pro-Am Parkour Championshipなど、各種団体によるパルクールの大会と思しきイベントは複数開催されている。これらのイベントに賛否両論が寄せられているのは事実だが、同時に、そのメディア露出の多さからパルクールそのものの認知度の向上に貢献しているのも間違いない。
さて、今回ニュースとなったパルクールのオリンピック新種目化についての調査を始める。まず、国際体操連盟(FIG)の公式サイトに掲載中のプレスリリース原文より、本件に関する箇所を抜粋する。最初に目につくのは、FIGがパルクールという言葉を含む、障害物競走(parcours d’obstacles)について言及していることだ。
parcours d’obstacles (obstacle course competitions) and parkour, already part of the work of many national gymnastics federations including Sweden, The Netherlands and Belgium,
こちらのリリースによれば、障害物競走(parcours d’obstacles)およびパルクールは、スウェーデン、オランダ、ベルギーを含む多くの国立体操連盟における活動の一環として既に実施されているようだ。その上で、FIGは下記のように語っている。
the Executive Committee agreed the development of a related FIG discipline.The Executive Committee has mandated the Presidential Commission to continue the development process.
FIG理事会は、障害物競争に関係のある新しいFIGの種別を今後作っていくことを決め、「Presidential Commission」に新種別の作成を進めるよう指示している。
ここで、障害物競走(parcours d’obstacles)について調べてみると、下記のような動画が複数見つかった。規定の障害物、コースが設置されており、スタートからゴールまでの時間を競う競技であることが分かる。
[8e RPIMa - OFFICIEL] Le parcours d'obstacles du CME*
さて、オリンピックにおける体操競技には現在「体操競技」、「新体操」、そして2000年より新しく種別として加わった「トランポリン」の3つがある。また、FIGの種別には「体操競技」「新体操」「トランポリン」「エアロビック」「スポーツアクロバット」の5つが存在している。今回取り上げられている「障害物競走(parcours d’obstacles)」をベースに、FIGは新しい体操競技の種別を追加するようだ。なお、オリンピック憲章において、種別は下記のように定義されている。
プログラムは競技、種別、種目で構成される。(中略)種別とは、競技の一部門で、一つもしくはいくつかの種目からなる。
またFIGは、今回作成される障害物競走をベースとした新種別とパルクールの関係性について、下記のように言及している。
The FIG’s work will be based on a clear understanding that parcours d’obstacles, or obstacle course competitions, are necessarily artificial. Meanwhile the FIG deeply respects the development of parkour as a non-competitive training methodology, based on obstacles that were not created as such, and with a particular philosophy emphasising efficiency, usefulness and personal development," President Watanabe said.
FIGにより新しく作成される種別は、人工の障害物を超えていく形での障害物競走(parcours d’obstacles)になる。一方で、効率性や有用性、個人的発達を強調する、ある種の哲学と共に語られる、非競技的なトレーニングメソッドとしてのパルクールの発達については深く敬意を表する、と渡辺会長は述べている。
なお、FIGによる公式リリースではパルクールのオリンピック種目への追加に関する記載は見られなかった。今回の調査結果より、下記を結論としてまとめる。
- FIGは、FIGの規定する体操競技の新種別に、障害物競走(parcours d’obstacles)をベースにした新しいものを追加する予定である。
- 障害物競走はparcours d’obstaclesと呼ばれているが、いわゆる英語圏で言うparkourとは異なり、規定のルート上に障害物を置き、そのスタートからゴールまでの時間を競うスポーツとして実際に存在して実施されている。
- 体操競技において、障害物競走(parcours d’obstacles)が活動の一環として行われている。
- パルクールがオリンピックの新種目になるという動きは全く見られず、あくまで提言団体になりうるFIGの中で、障害物競走を新種別としての追加する動きが始まった段階である。
ただし、2016年冬にノルウェーのリレハンメルで開催されたユースオリンピック冬季競技大会では、障害物競走ではない、いわゆる一般に認知されているような「パルクール」がエキシビジョンの1つとしても実施されている。パルクール自体が世界各地で注目を集めているのは間違いないようだ。